ネジの加工方法にはさまざまな方法があります。
その中でも幅広く取り入れられているのが「塑性加工(そせいかこう)」という方法です。
この塑性加工とは一体どのような加工方法なのでしょうか。
このページではねじ製作における塑性加工とは何か、塑性加工の種類やメリット・デメリットについて解説します。
塑性加工とは
「塑性」とは、物に力を加えた時、破壊されることなく変形され、力を取り除いてもその状態を維持し続けることです。
塑性の発生条件は物質により異なります。
中でも、温度で影響を受けやすく、特に金属の場合、温度が高くなる程変形しやすく、常温では変形しにくいという特徴があります。
この特性を生かして樹脂や金属などで加工品を製作することを「塑性加工」と呼びます。
塑性加工の歴史は古く、日本では日本刀の加工法が塑性加工の「鍛造」にあたります。
塑性加工はねじやナットなどの部品をはじめとして、車のエンジンのクランクシャフトやロケットの部品など、日用品から特殊な製品まで、小さなものから大きなものまで幅広く採用されています。
塑性加工のメリット
加工時間が短い
塑性加工では型を使って成形することが多く、加工時間も短いため、大量生産に向いています。
材料の性質を改善することができる
塑性加工では素材を変形させるため、材料内部に残っていた残留応力などの欠陥を減らすことができたり、金属材料が持つ加工硬化という性質により強度を向上させることができます。
切削加工のように材料の組織を切断しないため、最終製品としての強度を高くすることもでき、大きな力が掛かる部品の製造にも向いています。
低コスト化につながる
切削加工では大量の削りくずが発生しますが、塑性加工では削りくずが発生しません。
また、切削加工では材料を削るため、その分大きな材料が必要ですが、塑性加工ではその必要がありません。
このため、塑性加工では必要な原材料のロスが少なく低コスト化に繋がります。
塑性加工でしか製作できないものがある
例えば板材のように、塑性加工でしか製造できない製品もあります。
塑性加工のデメリット
初期費用やコストが高い
塑性加工では大きな力を材料にかけて変形させるため、加熱装置や加工機械など大掛かりな設備が必要です。
また、型の製作といった初期費用やメンテナンス費用が必要となり、少量の製作ではコストが高くなりやすい傾向があります。
切削加工に比べると精度面で劣る
塑性加工の種類にもよるものの、一般的に切削加工などに比べると寸法精度が劣ります。
そのため、大まかな形を塑性加工により製作し、精密な寸法が求められる箇所については追加で切削加工を行うこともよくあります。
熱間塑性加工と冷間塑性加工
塑性加工は加工温度により「熱間塑性加工」と「冷間塑性加工」があります。
熱間塑性加工は900~1200℃で加工する硬度が高い金属で用いられる方法、一方、720℃以下で加工する方法が冷間塑性加工です。
一般的に金属は加熱をすると膨張して変形しますので、冷間塑性加工が用いられることが多い傾向があります。
塑性加工の加工方法の種類
塑性加工の加工方法には鍛造加工、圧延加工、プレス加工、押出加工、引き抜き加工があり、製品によって適切な加工方法が異なります。
鍛造加工
鍛造加工は金属を叩いて圧力を加えて強度を高める技術のことです。
ハンマーやプレス機を用いて金属を圧縮して内部の空隙を潰し、より強固な素材へ鍛えていきます。
鍛造加工は自動車のエンジン部分やペンチ、スパナ、包丁など、高い強度を要求される製品で多く用いられます。
圧延加工
圧延加工は、2本のロールの間に金属を通してロールで圧力を掛けながら薄く引き伸ばす加工方法です。
板材から紙のように薄いアルミニウム箔、棒材や管材まで幅広く加工することができます。
プレス加工
プレス加工は、加工物に金型を押し当て、圧力をかけて成形する方法です。
曲げ加工で用いられるのが一般的ですが、穴など決まった形にくり抜くことも可能です。
プレス加工は自動車のボディや部品、家電製品の内臓部品、硬貨などに用いられます。
押出加工
押出加工は、金属を小さな空間に閉じ込め、圧力をかけて押し出しながら成形していく加工法です。
ダイスと呼ばれる穴から金属が一定の形状を保ったまま押し出されていくため、長い部品を製造するのに向いています。
押出加工は窓のサッシや航空機の部品などに用いられます。
引き抜き加工
引き抜き加工はダイと呼ばれる金型から材料を引き抜く加工法です。
押出加工と同様に、一定の形状の長い製品を製造するのに向いていますが、引き抜き加工の方が細長い製品の製造に向いています。
寸法精度が高く、ロスも少ないため、引張強度の高い素材を製造することで、ピアノ線やワイヤー、パイプなどの製造に用いられます。
ねじ製作における塑性加工
では、ねじやボルト製作では具体的にどのような塑性加工が行われるのかを見ていきましょう。
頭部圧造
頭部圧造は、ねじの頭部を鍛造加工により成形する方法です。
ヘッダーマシンという機械で線材を切断した後、材料の一端を絞って成形し、その後潰して頭部を成形します。
さらに、材料を押し込んでねじの駆動部の穴を開けます。
転造加工
ボルトのねじ部分、つまりねじ山の成形は塑性加工では一般的に転造加工で行います。
平ダイス転造方式ではネジの形状を写し取った固定側と移動側の2枚の平ダイスを使用します。
材料を平ダイスで挟み、一定の圧力を掛けながら転がして表面にねじ山を成形します。
移動側のダイスが1往復するとねじ1本を作ることができます。
六角穴加工のプレス加工
ねじに六角穴をあけるためには、プレス加工が用いられます。
下穴を開けた材料を金型とプレス機械ではさみ、プレス機械で強い力を加えることで六角穴の形に成形します。
特殊ネジの製作は一度メーカーに相談を
既製品以外のサイズや付加機能付きのねじ、ボルト、ナットなどの製作や、これまで使用していたねじが廃盤になってしまい仕入れられなくなった場合などはまずは金属部品の製造会社に相談してみることをおすすめします。
「こんなのがあったら」という構想段階でも一度製造のプロに相談してみることで実現する可能性が高まります。